“セル・イン・メイ”はどこから来た?:17世紀ロンドンに始まる季節アノマリーの正体

みなさん、こんにちは。まずは「Sell in May and go away」という格言の背景からひも解きましょう。
17世紀のロンドンでは、夏になると上流階級の投資家が社交シーズンと競馬観戦に専念するため株を売却し、9月のセントレジャー開催後に市場へ戻るのが慣例でした。
この習慣が格言として残り、現在でも 11 月から 4 月の冬季相場の平均リターンが、5 月から 10 月の夏季相場を上回るという統計が確認できます。実際、世界 108 市場を対象にした研究では冬季が夏季より平均で約 4 ポイント高い成績を示しました。
とはいえ近年は 24 時間取引や個人投資家の増加によって差が縮まり、「夏もプラスだが冬よりやや弱い」程度に落ち着いているのが実情です。S&P500 の 1945 年以降のデータでも、5〜10 月期は平均プラスを確保しており、完全に現金化すると上昇分を取り逃すリスクがある点を覚えておきましょう。
2025 年版“Sell in May”:トランプ関税ショックの行方と夏相場の攻防
続いて、今年特有の材料を整理します。4 月初旬に発表された米国の追加関税、いわゆるトランプ関税ショックは一時的に市場を動揺させました。
米政府が主要貿易相手国に 10〜25%の関税を課したことで、製造業のコスト高が懸念され、 IMF の春季会合でも実体経済の下押しリスクが指摘されました。それでも株価は急落後に自律反発し、年初来では右肩上がりを維持しています。
そのため投資家の間では「このまま攻め続けるのか、それとも不透明感を警戒して守りを固めるべきか」という判断が分かれています。最終的には、自分が許容できるボラティリティと、目標リターンを数値で把握したうえでシナリオを描くことが不可欠です。
インフレ下で「現金が安全」とは言い切れない:日本の物価上昇が示す現金リスク

日本国内に目を向けると、物価上昇が続いています。
最新の東京コア CPI は前年比 3.4%に達し、食品や日用品の値上げも止まりません。これは現金の購買力が毎年 3%ずつ削られていることを意味し、単に預金比率を高めるだけでは防衛にならない状況です。
したがって守りを意識する場合でも、インフレ耐性のある資産を併用することが重要になります。その筆頭が、需要が落ち込みにくく価格転嫁力の高い内需企業と、分配金利回りが上昇している J-REIT です。
攻めと守りを両立させる:内需株と J-REIT で構築する“バランス型”ポートフォリオのアイデア

まず価格転嫁力のある内需株については、生活必需サービスで強いブランドを持ち、広告費や原材料比率が低い企業に注目しましょう。
こうした企業はインフレ局面でも需要が落ち込みにくく、営業キャッシュフローが純利益を安定的に上回る傾向にあります。潤沢なキャッシュは配当や自社株買いの原資となり、防衛的でありながら株主リターンを押し上げる力になります。
一方、輸出企業:たとえば自動車、精密機器、半導体素材などは、海外売上高が多いぶん世界の成長を取り込みやすく、「攻め」の役割を果たします。
ただしここでは 為替リスク が避けられません。円安が進めば利益は押し上げられますが、円高に振れるとドル換算の売り上げが目減りし、株価が想定外に変動することがあります。投資する際には、①売上の通貨分散(ドル・ユーロ・人民元など)が進んでいるか、②生産拠点を海外に持ち“自然ヘッジ”が効いているか、③先物やオプションで為替ヘッジを行っているか、といった点を決算資料で確認するようにしてください。
為替の波をダイレクトに浴びたくない場合は、円建てで為替ヘッジを行うインデックスファンドや、グローバル企業群と内需株を組み合わせて“相殺効果”を狙うポートフォリオを検討すると良いでしょう。
そして J-REIT はインフレ連動クーポンのような役割を果たします。賃料は物価に合わせて段階的に改定されるため、長期的に購買力を守りやすく、4 月末の平均分配金利回り 5.08%は CPI を差し引いても実質 2%前後を確保できます。
具体的な配分例としては、輸出比率の高いグロース株を 2 割、価格転嫁力を持つ内需株を 4 割、安定利回りの J-REIT を 3 割、短期的な生活防衛資金として現金を 1 割とする設計が考えられます。輸出株の為替リスクが顕在化した場合でも、内需株と J-REIT のディフェンシブ性がクッションとなり、さらに物価上昇による現金の目減りも抑えられます。もちろん年齢や収入、目標リターンによってウエイトは柔軟に調整してください。
エンディング

「Sell in May」は流動性と投資家行動が作り出した歴史的な格言であり、必ずしも「夏は下落」ではありません。
2025 年はトランプ関税という突発要因と、日本固有のインフレという構造要因が重なっているため、単純な現金化ではむしろリスクが高まる場面もあります。歴史的データの背景を理解しながら、インフレと政策リスクを同時に織り込む攻守バランスを取り、現金の購買力低下を防ぐ受け皿を用意することが、夏相場を乗り切る鍵になると思います。最後までご視聴いただき、ありがとうございました!